人と人、世代をつなぐ“まちの架け橋” TAMARIBA/縁寿屋

仙台市宮城野区・岩切。住宅街の一角にある白い建物
TAMARIBAたまりば縁寿屋えんじゅや」は、駄菓子屋を中心にカフェや美容室が並ぶ小さな複合施設です。

施設全体は遠藤家がオーナーとして運営し、駄菓子屋の「縁寿屋」はオーナー夫妻と姉妹が切り盛りしています。世代をこえて人が集い、笑顔が行き交うこの場所の魅力を、運営する遠藤靖子さんに伺いました。

記憶を受け継ぎ、“もう一度、駄菓子屋を”

TAMARIBA/縁寿屋は、かつてこの地で長く親しまれた「遠藤商店」の記憶を受け継いで生まれました。明治時代に創業し、代々地域に根ざした商いを続けてきましたが、昭和60年に店の歴史に幕を下ろします。

年月を経て、「もう一度、駄菓子屋を」という家族の強い想いが芽生えました。
「主人をはじめ、義姉も義妹も、幼い頃に駄菓子屋で過ごした時間が強く心に残っていて。あのとき感じた楽しさや人の温かさを、今のこどもたちにも味わってほしいという想いが膨らみました」と靖子さんは話します。

さらに、岩切では新しく若い世代が増え、地域の顔ぶれが変わりつつあります。
「昔からの住民と新しく転入してきた方をつなぐ“架け橋”になりたい。地域に新しいにぎわいをつくり、老若男女が集えるランドマークのような場所にしたいと思うようになったんです」。

こうして生まれた想いの重なりが、新旧の住民が交わる岩切のまちに「TAMARIBA」を生み出す原点となり、令和5(2023)年6月にオープンしました。

誰もが安心できる、あたたかな空間設計

TAMARIBAは複合施設全体の名称で、その一角にある駄菓子屋が「縁寿屋」です。カフェや美容室と並びながら、地域の人々が気軽に集う小さな拠点となっています。

空間づくりは、「人が集まり、自然に会話が生まれる場所」を目指して設計されました。手がけたのは、“人の集う場”の設計を得意とする建築士。道路から緩やかなスロープを設け、ベビーカーや車椅子でも入りやすいよう配慮されています。

カフェ、美容室、駄菓子屋の縁寿屋はゆるやかにつながり、誰もが自然に行き来できる動線に。カフェに来たおとなが駄菓子屋に立ち寄ったり、こどもが少し背伸びしてワッフルを頼んだり――そんな日常の行き来が、場に心地よい交わりを生み出しています。

木目を活かしたあたたかい内装に加え、敷地の角にあえて看板を設置することで、駐車場に入る車の進入速度を抑えるなど、こどもの安全を第一に考えた工夫も随所に施されています。

会話が生まれる、あたたかな心の居場所

縁寿屋では、こどももおとなも、年齢に関係なく“ひとりの人”として向き合い、丁寧に言葉を交わすことを大切にしています。

「『妹が生まれたよ!』などのうれしい報告はもちろん、『友達と喧嘩しちゃった』『好きな人ができた』など、親には言いにくいけれど、誰かに話したいことを、こどもたちはいろいろと話してくれます」と靖子さん。

ある日、常連の若い男性が「彼女ができました」と照れながら報告してくれたことも。「その後、しばらくして買っていくお菓子の量が増えたので、もしやと思ったら『こどもが産まれました』って。親戚のように見守るというか、話しやすい雰囲気づくりは大事にしていますね」。

縁寿屋は、こどもたちだけの場所ではなく、おとなにとっても、自分の人生の一部をそっと共有できる“地域の寄りどころ”になっています。

得意分野を活かす家族チーム

TAMARIBAは、代表の聡さん・靖子さんご夫婦と、聡さんの姉・ひろえさん、妹の洋子さんが力を合わせて運営しています。

聡さんは地域の活動にも積極的で、まちと店をつなぐ“顔”のような存在。
ひろえさんは企画や仕入れを担い、洋子さんは母親の視点で安全や配慮を重視。
そして靖子さんは経理・事務を担当し、事業の基盤を支えるまとめ役です。

「それぞれ違う得意分野があって、それを自然に出し合えるのが私たちの強み」と靖子さん。
家族の絆と役割が重なりながら、この小さな拠点を支えています。

小さな駄菓子屋は、“社会を学ぶ教室”

縁寿屋は、こどもたちが人との関わりや社会の仕組みを自然に学ぶ場所にもなっています。

店はキャッシュレスではなく、必ず現金で支払う仕組み。「92円を100円で出すのもいいけど、102円なら10円が返ってくるよね」と一緒に考えたり、「今の予算だと、これとこれは一緒に買えるかな?」と声をかけたり、買い物の工夫を一緒に考えていきます。

こども一人ひとりには「ポイントカード」を発行し、楽しみながらお金の使い方を学べる仕組みを取り入れています。一方で、ポイント欲しさに買いすぎてしまわないよう「1日1ポイント」とし、かき氷や100〜200円の少し高いフード類にはプラス1ポイントが付く工夫も。

また、友達にむやみにおごろうとする子には、「友達に好かれたくておごるって、本当の友達の関係かな?」「おごってもらわなくても一緒に遊んでくれる友達っていいよね」など、人との関わり方についても丁寧に対話します。

こうした日常のやり取りを通して、“生きた学び”がこどもたちと一緒に育まれています。

昔と今をつなぐ「まちの架け橋」

TAMARIBAは、地域の拠点として多世代に開かれています。
老人会やこども会、近隣の小学校や放課後等デイサービスなどからも利用され、安心して買い物や交流を楽しめる“社会体験の場”にもなっています。

「この地域は人のあたたかさにあふれています。通学路の雪かきをしてくれるおじいちゃんがいたり、こどもに声をかけてくれる人がいたり。そうした“見えない支え” が、この地域のあたたかさを形づくっているんです。そのことをこどもたちにも伝えていきたいと思っています」と靖子さん。

TAMARIBAは、新しく越してきた人と昔から住む人が自然に交わる“まちの架け橋”として、岩切の地域にそっと根を張っています。

「いろいろなことがあっても、ここでの楽しい思い出がふっと心に浮かぶような場所でありたい」。
今日もTAMARIBAでは、家族のあたたかな視線と小さな会話が、地域の未来へとつながる笑顔を生み出しています。

放課後のたまり場で生まれる小さなドラマ

午後3時を過ぎるころ、縁寿屋にはこどもたちの姿がちらほら見えはじめます。
お菓子を選ぶ手元は真剣で、カウンターの前にはいつもの笑い声が広がります。

「お父さんお母さんと来ていた子が、5年生くらいになると一人で来られるようになって。成長を感じられるのが本当にうれしいですね」。
そう話すのは、ひろえさんです。

洋子さんは、「こどもはもちろん、おとなも含めて、来てくれた人みんなにひと言は声をかけよう――それが私たちの心がけです」と話します。

この日も、久しぶりに来たという2年生の子が笑顔で話します。
「1個が安いからうれしい。今日の予算は500円!」。

6年生の男の子は少し照れくさそうに、「お父さんの誕生日プレゼントを買いにきた」と教えてくれました。
友達の誕生日プレゼントを選びに来るこどもも多く、駄菓子のプチギフトセットも常に用意されています。

小さな駄菓子屋のなかで交わされる日々のやりとり。
そこには、こどもたちの成長と、地域のあたたかさが静かに息づいています。

©︎公益財団法人仙台こども財団

TAMARIBA/縁寿屋