多世代がつながる“みんなの食堂”

仙台市若林区荒町。荒町市民センターの一角では、奇数月の第3土曜日に、にぎやかな食卓が広がります。「すまいる食堂」は、こどもだけでなく、一人暮らしの高齢者や家族連れも参加する、世代を超えて集う“みんなの食堂”です。

この場所を運営しているのは、荒町地区社会福祉協議会、荒町地区民生委員児童委員、仙台市社会福祉協議会若林区事務所、五橋地域包括支援センター、東北学院大学セツルメント会、地域や五橋中学校のボランティアの皆さんです。

はじまりは、地域のこどもたちのために

平成28(2016)年12月、すまいる食堂はスタートしました。
「荒町は仕事を持っているお⺟さんが多くてね。こどもだけで夕飯を食べていると聞いて、『何とかしたい』と思ったのが最初でした」と話すのは、荒町地区連合町内会会長兼荒町地区社会福祉協議会会長の武川由美子さんです。

武川さんは「世代を超えて、誰もが居心地よく過ごせる場所をつくりたい」とずっと思っていました。「当時、荒町地区民生委員児童委員協議会と荒町地区社会福祉協議会、両方の会長を務めていたので、すまいる食堂をやりたいと相談したら、みなさん『いいわよ』といってくれて始まったんです」と話します。

こども食堂から「みんなの食堂」へ

当初はこどもが中心で10人に満たない規模でしたが、「テレビ相手に食べてもおいしくないのよ」と話す一人暮らしの高齢者の声をきっかけに、ポスターに「どなたでも」と加えたことで、少しずつ世代の輪が広がっていきました。

今では、利用者の半分近くが高齢者です。「荒町市民センターだよりで申込み方法を記載しているのですが、申込み初日になると、予約の電話が朝6時半過ぎにかかってくるんですよ。『〇〇です、予約お願いします』って。だから、朝6時半にスマホとメモ用紙を置いてスタンバイしているの。それだけ楽しみにしてくださっているんだなと思います」。

常連になると、自然と“自分の席”も決まってきます。
「顔見知り程度だった方たちが、『今日はあの人来ないね、風邪かな』と気遣い合うようになって。いつの間にか “仲間”になっていく姿を見ると、続けてきてよかったと感じます」と武川さんは語ります。

すまいる食堂に3年ほど家族で通う齋藤さん一家にもお話を聞きました。「家を出ると、ご近所さんが『今日(すまいる食堂に)行くんだね』と声をかけてくれるんです。中学生の娘にも自然と声をかけてくれて」とお父さん。
お母さんは「今は家族と一緒に来ていますが、娘が高校生になったら、友達と来て全然知らない方とも話して、積極的にコミュニケーションを取れるようになってほしい」と教えてくれました。

大学生・中学生ボランティアが広げる関わりの輪

すまいる食堂では、大学生と中学生のボランティアが毎回参加しています。調理場では、大学生や中学生が社会福祉協議会の方々に教わりながら、食材を切ったり盛りつけたりと、てきぱきと作業を進めています。

東北学院大学のボランティア団体「セツルメント会」は、コロナ禍で活動先を探していた顧問の先生が武川さんに相談したことをきっかけに、参加が始まりました。

5回目の参加となる大学3年生の設樂さんは、「小規模だと思っていたら約100食分と聞いて驚きました。皆さんに教わりながら調理補助をしています。すまいる食堂と大学はすぐ近くなので、周辺を歩いていると『あ!すまいる食堂のお兄ちゃんだ!』と話しかけてくれてうれしいです」と話します。

「貢献するのが好きだと気づけた」という学生や、人見知りながらも「世代を超えて気兼ねなく料理を楽しめる雰囲気をつくりたい」と話す学生もいて、ボランティアの参加は若い世代が“新しい自分”を見つける機会にもなっています。

一方、五橋中学校の生徒が参加するようになったのは、五橋中学校学校運営協議会の委員をしている武川さんが委員会に参加した際、校長先生が「⽣徒達にボランティアをしてほしいが、受け⼊れてくれるところありますかね」と言っていたことから、「校長先生、すまいる食堂へどうぞ」と伝えたのが始まりです。

初めての活動は、きゅうり70本分の浅漬けづくり。「とてもおいしくできて、今では十八番メニューです。ない日には『今日はきゅうりないの?』と聞かれるくらい」と武川さんは笑います。

初めて参加する中学1年生の村上さんは「すまいる食堂に食べに来たことがあって、おいしかったからボランティアをしたくなった」と話します。2回目の参加である中学1年生の及川さんは「前よりも上手く作業ができたし、今回は自分から仕事を探すことができたかなって思います」と話してくれました。

こうした小さな変化が積み重なり、学校の中でも行動に変化が表れているといいます。教頭先生からは、「学校で困っている子を助けるようになった」「今まで動かなかった子が、自分から先に立って行動するようになった」といった報告も届いているそう。

大学生や中学生が真剣に動く姿は、食事に来る小学生たちにもいい影響を与えています。自然と「誰かのために役立つ」気持ちが広がっている、と武川さんは言います。

「杖をついて食堂に入ってくる高齢者を見つけると、お茶を紙コップに入れて持って行く子がいるんです。お箸を落とした人がいると、『あのおばあちゃん、落としたよ』と教えに来てくれて。『持って行ってくれる?』と言うと、渡しに行ってくれて。ニコニコしている姿を見ると、きっと“ありがとう”って言われたんでしょうね。“ボランティアしなさい”なんて言わなくても、自然と誰かの役に立とうとしてくれるんです」と武川さんはその広がりをうれしそうに語ります。

おとなにも広がる、すまいる食堂でのあたたかい変化

すまいる食堂では、こどもだけでなく、おとなにもうれしい変化が生まれています。

盛岡から荒町に引っ越してきた80代の女性は、誘われてすまいる食堂に通っていたものの、笑顔も少なく会話も反応が薄く、武川さんは心配していました。しかしある日、ニコニコして入ってきたそうです。「理由を聞いたら、前回のすまいる食堂で小学生の男の子から『僕のおばあちゃんになって』と言われたんですって。私たちがどれだけ声をかけても反応がなかったのに、小学生のたった一言で、ぱっと表情が変わる。そういう瞬間を見られるのも、すごく楽しいですね」と武川さんは微笑みます。

すまいる食堂が目指す未来と荒町の将来像

「世代を超えて、誰でも居心地よく過ごせる場所でありたい」――すまいる食堂の願いは、開設当初から変わりません。

かつては黙って入って帰っていたこどもたちも、武川さんが『こんにちは』と声をかけ続けたことで、自然に「こんにちは」「お邪魔します」と返すようになりました。おとな同士も声をかけ合い、こどもに「おかえり」と声をかける光景も生まれています。

「結局、声がけなのよ。『こんにちは』が大事」。
その言葉には、人と人がつながる地域づくりの原点が込められています。

そして武川さんが思い描く荒町の未来は、「気軽に声をかけ合える地域であってほしい。外に出たら『どこ行くの?』と一言でも声をかけられる、そんな場所がいいんです」。

声をかけ合えるまち。誰かを一人にしないまち。
すまいる食堂は、そのための“よりどころ”であり続けることを目指しています。

©︎公益財団法人仙台こども財団